『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #27「シャイニング」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #27「シャイニング」
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第27回作品『シャイニング』1980年米英
もはやモダンホラーの偉大なる古典、と
言えるだろう本作は巨匠キューブリックの独特な
感覚と美意識が恐ろしいほどに溢れている。
お酒といえばやはり「The Gold Room」の
シーンが印象に残りそのバックカウンターには、
ジンやウィスキーなど様々な銘柄が並んでいます。
そこで今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『ジャック・ダニエル』(バーボン)
雪に閉ざされたリゾートホテル。
アル中の過去がある主人公ジャックが次第に狂気の淵へ…
辿りついたのはThe Gold Roomの幻想のバー。
先程まで何もなかったカウンターに中年の妖しい
バーマンが立っていて裏には無数の酒瓶が並ぶ…
「酒が欲しい」と言って出てきたのがこのお酒、
ジャック・ダニエル。俳優ジャック・ニコルソン、
役名ジャック・トランス、と三重に掛かっている
のもシャレというよりはむしろ夢想感を引き立てるよう。
また、キューブリックの手に掛かると黒いラベルが
何故か妙に恐ろしく見えて魔酒へと変貌していく。
酒を絶っていた元アル中が手を伸ばすというだけで
先が思いやられるが、ここでのジャックのセリフで、
「酒は白人の呪いだ、インディアンは知らん。」
アメリカのフロンティア・スピリッツを象徴するお酒でも
あるバーボンは元々ネイティブ・アメリカンの主食だった
トウモロシを白人が横取りし、それを醸造したお酒と。
「オーバールック・ホテルはネイティブ・アメリカンの
墓地の上に建てられた」とのアルマンの説明があります。
それはヨーロッパから侵略してきた白人に土地を追われた
ネイティブ・アメリカンの怨念・因果、カルマが、
フロンティア・スピリッツとは名ばかりの、実際は侵略・
略奪を象徴するバーボンというお酒を使って白人を狂わせ
ようとしているのだ、というシーケンスとも言えます。
ご存知ジャック・ダニエルは、テネシー州リンチバーグで
生まれたテネシーウィスキー。
蒸留直後3m以上の深さのサトウカエデの木炭槽で一滴一滴
濾過するチャコール・メローイングと呼ばれる工程が特徴。
「ガントレット」「セント・オブ・ウーマン」
「ストレンジャー・ザン・パラダイス」など多くの映画に登場します。
『レッド・ラム』(ラム)
狂気に陥ったジャックをウェンディはバットで殴り
気絶させている間にウェンディはジャックを倉庫へ。
張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、彼女はベッドで
眠り込んでしまう。(さすがに寝ては駄目でしょう)
ウェンディの近くにやってきたダニーは「REDRUM」と
つぶやきながらナイフを手に取り、ウェンディの口紅で
ドアに「REDRUM」の文字を殴り書く。
次第にダニーの「REDRUM」の声はつぶやきから叫びに変わり、
ウェンディは目を覚ます。そこでウェンディが見たのは、
鏡に映って反転した「MURDER」の文字だった。
これもこの映画の有名なシーンの一つ。
レードラーム!レードラーム!レードラーム!と
繰り返し叫びだす鋭敏な息子、もう穏やかではありません。
その後はあのポスターにもなる有名な展開へと…
そこでこの映画にインスパイアされて作られたお酒、
レッド・ラムを紹介します。
このボトル、背中が透けていて裏から読むと”MURDER”
人殺し。そして作中で印象的に使われる「赤」という色、
このお酒も鮮やかな血のようなボトルと液体と、
中々凝った作りになっています。
名前とは大きく異なり、度数も低く甘く飲みやすい。
ヴァージン諸島産のラムをベースに、南米産のパパイヤ、
ココナッツなどトロピカルフルーツのフレーバー付きで
カクテルベース向きのお酒でしょうか。
海外ではこう言ったフレーバースピリッツや高い度数の
リキュールなど、カクテルベースのお酒は人気で
パーティーユースなどで良く好まれます。
映画由来のお酒なんていいじゃない。