『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #32「ハンナ・アーレント」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #32「ハンナ・アーレント」
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第32回作品『ハンナ・アーレント』2012年独仏ルクセンブルク
作品中、シャンパンで乾杯するシーン(ローランペリエ風)
や居間の団欒では頻繁に赤ワインが飲まれている。
なで肩のボトルなのでブルゴーニュかと思われるが、
いずれも銘柄の特定までには至らず。。
部屋にジン、ウィスキーらしきボトルもあるが、
いずれも背中向きでラベルが見えなく置かれている。
これは商標の問題や、現行のボトルを使うと
時代考証が合わないので映画ではよくあるパターン。
そこで今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します
『ニューヨーク』(カクテル)
1960年代初頭。ナチスの親衛隊将校で、数百万人もの
ユダヤ人を収容所へ移送したアドルフ・アイヒマンが
逮捕され、哲学者のハンナ・アーレントは、自ら希望し
ニューヨーカー誌の特派員して彼の裁判を傍聴する。
彼女はナチスの政権獲得とともにフランスに亡命し、
親独のヴィシー政権によって抑留され、間一髪で脱走、
米国に亡命しニューヨークで大学教授として、最愛の夫
ハインリッヒ、友人で作家のメアリー・マッカーシーら
と送る穏やかな日々。
世界にスキャンダルを巻き起こすニューヨーカー誌の記事、
亡命先であり、彼女の活躍の場であるニューヨーク。
そこでその名を冠すカクテル、ニューヨークをご紹介。
マンハッタンを染める朝焼けをイメージしたとか、
レッドオレンジが美しい都会的な印象のカクテル。
20世紀初頭から飲まれるスタンダードカクテルで、
ベースのバーボンに、ライム果汁、グレナデン・
シロップ、そして砂糖をほんの少々加えよくシェーク。
最後にオレンジ・ピールを絞りかけて仕上げる。
オレンジの香りとウィスキーの優しい口当たり。
今回はライ・ウィスキーのオールドオーバーホルトを使用、
禁酒法時代はカナディアンウィスキーであったよう。
オールドオーバーホルトを使った理由はもう一つ、
ラベルの人物は、ドイツ系開拓民3世で創設者のアブラハム・
オーバーホルトというところから。
作品のポスターの背景、また映画のエンディングでは、
ゆっくりしたロールでマンハッタンの夜景が映し出される。
自由の国アメリカ、文明の繁栄を象徴するニューヨーク、
彼女の人生に於いて、さぞ重要で格別な場所であったろう。。
『ヤルデン・マウントヘルモン・レッド』(ワイン)
ユダヤ人であるハンナ・アーレントはアイヒマン裁判、
その後、旧知の友人に会いにイスラエルを訪れます。
また作中ではホームパーティーなどでワインがよく飲ま
れていますが銘柄は特定できず、そこで今注目されている、
イスラエル産ワインをご紹介します。
彼女のアイヒマン裁判の論文が一部のユダヤ人がナチスに
手を貸していたと言う一説から、同胞のユダヤ人から大きな
反感を買い、古くからの親しい者達が次々に去っていく。。
ユダヤ人、イスラエルという点からお酒の話へと。
イスラエルにおけるワイン造りの歴史は紀元前2000年頃
まで遡ります。当時、優れた土壌と人々の努力により、
「水よりも多い量のワインを生むブドウ畑に祝福された土地」
と言われていました。その後イスラム教徒の支配下になり、
かなり長期間中断され、ワイナリーは数軒だったとか。
政府の政策やヨーロッパやアメリカの技術を積極投入して、
ここ数十年で数百のワイナリーに成長し、現在イスラエルは、
オールド・ワールドの最前線で活躍する国際市場で最も
注目されるワイン国となっています。
こちらのマウント・ヘルモン・レッドは冷涼なゴラン高原で
収穫されたカベルネ・ソーヴィニョン、メルロ、マルベック、
プティ・ヴェルド、カベルネ・フランといったクラシックな
ボルドーブレンドで造られたスタンダードなワイン。
飲んでいただいた方にも好評でイスラエルワインの真価を
感じ入った次第。
ラベルのランプが象徴しているのは、伝統と新しさの融合、
またこのブランドがイスラエルの新たなワイン産業の灯火と
なるようにという意味がこめられています。
ワイン一本からユダヤ人やイスラエルの歴史を感じ。。