『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #40「ストレンジャー・ザン・パラダイス」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #40「ストレンジャー・ザン・パラダイス」
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第40回作品『ストレンジャー・ザン・パラダイス』1984年米国/西ドイツ
ジム・ジャームッシュが監督した長編映画で、
全編をモノクロで撮られたデッドパン(無表情)喜劇。
三部構成の淡々とした日常のスケッチの中で、
大事件もロマンスも、何も起こる事は無い。。
ざらついたモノクロフィルムの世界ので、
酒もタバコの煙も何だかヒップな雰囲気で。。
そこで、今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『バドワイザー缶』(ビール)
ハンガリー出身で、今はニューヨークでギャンブラーとして
生計を立てているウィリー(ジョン・ルーリー)の元に、
叔母が入院する10日間、ブタペストから来た従妹のエヴァ
(エスター・バリント)を預かるところから物語は始まる。
ウィリーが夜な夜なTVディナーを食べるシーンが印象的で、
これも当時アメリカ的だと少し憧れたような気もする…
TVディナーとはテレビを観ながら作れます、食べられます、
な肉や穀物、野菜がワンプレートになっている冷凍食品。
独り者や料理嫌いが重宝しそうな超グータラなシロモノで、
いかにもアメリカを象徴するような食文化の一皿。
しかし外国人のエヴァにはかなり特異に映ったようで、
よくそんなモノが食べれるな、といった斜めの態度。
とは言え、毎夜二人でテレビを観ながらの夜は更けていく。。
当然、お酒も欲しいところとなりますが、
ここではアメリカ、アメリカ的を代表する銘柄、
粗忽で安価な缶のバドワイザーが良くマッチしている。
プシュッと開けてすぐに飲め、缶は簡単に潰してゴミに。
TVディナーといい、バドワイザー缶といい、
アメリカの合理主義や消費社会、スクエアな人達へ、
この作風な感じで批判が込められているような…
その後、徐々に打ち解けあっていく二人の日常に、
楽しげにバドワイザーを飲んでるシーンが登場する。
エヴァがクリーブランドに旅立っていった後にも、
ウィリーは寂しげな表情でバドを空けている。。
映画ではボトルのビールの方がポピュラーでしょうが、
この時代は缶での消費が完全に一般的になった頃でしょう、
日本でもインポートの缶ビールが流行り始めた時期。
例外なく自分も、バドワイザーその他ををケース買いして、
冷蔵庫の中をビールで埋め尽くしていた若い時代もあり。。
その頃は、それだけで、何だかとても気分が良かった。。
『ジャック・ダニエル』(テネシーウィスキー)
全てが真っ白な雪に覆われたクリーブランドで、
一年ぶりの再会を果たした三人は車でフロリダへ。
退屈な工業都市からバカンス気分で南部へと、
ロードムービー的な展開が進んでいく。
しかし、楽園とは名ばかりで閑散期のリゾートは、
荒涼とし想像と違う光景に皆すっかりトーンダウン。。
更に白けたムード中、気晴らしのドッグレースで、
有り金の全てを失うという最悪の事態に。。
そこで、最後の起死回生とばかりに競馬場へ、
一転大儲けをして小躍りで二人はコテージに戻る。
その時、手に持っている勝利の酒がジャックダニエル。
ジャームッシュの白黒のフィルムやトーンに、
このジャックダニエルのラベルが良く映える。
興奮状態なのだろう、一口飲んでは栓を閉める、
喋ってからまた一口飲んで栓を閉める、という
仕草がとてもユニークだ。
時折、ウィリーは自分はアメリカ人なのだ、と主張する、
またそう感じさせるシーンがある。
一方で、叔母やエヴァの存在、自分のルーツや言語、
根無し草という生き方に引っ張られてもいるが、
アメリカを代表するようなジャックダニエルを、
煽って飲むこの場面は何か象徴的でもある。
その間エヴァを言えば、あてもなく散歩をしていると、
麻薬の密売人と間違われ、ヤク中の黒人から大金を
受け取っていた。
コテージに残されたエヴァの置き手紙を見て、
二人は慌てて彼女を追って空港へと向かう。
その搭乗口でも片手にはジャックダニエル。
大金を手にし酔った勢いもあったのだろう、
ウィリーは前のめりでブタペスト行きの飛行機に。。
ジャックダニエルはシャイニングの時に一度登場、
その他「セント・オブ・ウーマン」「007ゴールデンアイ』
「ハッド」など様々な映画で観ることが出来ます。