『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #42「八月の鯨」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #42『八月の鯨』
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第42回作品『八月の鯨』1987年米国
サイレント時代のスター女優リリアン・ギッシュと
オスカー女優のベティ・デイヴィスが共演した1987年公開の人間ドラマ。
小さな島の別荘で夏を過ごす老姉妹と、彼女達を取り巻く3人の老人達が
織り成す人間模様や美しい情景を味わい深く描き出す。
キネマ倶楽部の会でのキーワードは「優しい映画」という言葉、
映画の作品群として「優しい映画」というものがあるだろう。。
作中でのお酒は、サラが亡き夫フィリップとの46回目の結婚記念日を、
赤と白の薔薇と一杯のワインで一人静かにお祝いするシーンのみ。
そこで、今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『エメラルド・クーラー』(カクテル)
サラは釣った魚をくれたお礼にと、マラノフ氏を夕食に招待します。
リビーは反対しますが、サラはドレスに着替えて正装してきたマラノフを迎えます。
彼は摘んできた花を捧げて、サラに賛辞を送ります。
サラとマラノフは昔話に花を咲かせる、時間が過ぎていくのも忘れて。。
亡命ロシア貴族であった彼は、母親からこれからの人生に役立てなさいと
多くの宝石を譲り受けたが、今はこのエメラルドが残るのみと話します。
それをサラは手に取ると見事なエメラルドよ、と目の見えないリビーの
手に包み入れます。マラノフが流浪の人生を送ってきたこと、そして
宝石の真価が分かる姉妹の出身の良さと、その真価ゆえにラマノフが
紛いものではない貴族の血筋であるだろう事もそこに表されています。。
そこでエメラルド・クーラーをご紹介。
ジン、ミントリキュール、レモンをシェイクして炭酸で割ったフィズスタイル。
モヒートやミントジュレップなど、夏はミントを使ったカクテルが良く好まれます。
ミントの香りや爽快さが八月という時季、また宝石のように澄んだグリーンの
色合いがこの映画の世界に良くマッチします。
あの別荘の庭には薔薇を始め、様々な植物が育てらていました。
客人のもてなしに、あるいは姉妹の寛ぎに、庭にあるミントの葉を摘んでは、
ミントティーやデザートを楽しんでいたことでしょう。
あと何年生きられるのか、分からないような高齢の老婦人であっても、
「大きな見晴らし窓」という新しい物を作り出そうというサラの思い。
エメラルドの石言葉は、安定、希望、喜び、新たなはじまり。。
『ジム・ビーム」(バーボン)
これは本作と直接的な関係ありませんが(アメリカの酒というくらい)
主演の女優ベティ・デイヴィスからの流れとなりまして。。
1970年代位でしょうか、ベティ・デイヴィスが広告出演していた事から
バーボンのジム・ビームをご紹介します。
歌にもなったその瞳、煙草を持った麗姿は真にベテラン女優の貫禄。
別のロバート・ワグナーとの広告には”Generation after generation”とあり
世代を継いで愛される酒、という宣伝文句において一時代を代表する大御所
である事がポスターから分かります。
そして、今では珍しくありませんがこの時代、男性の嗜みの象徴である
ウィスキーの広告メインに女性が起用されるのも相当大胆な試みでは
なかったでしょうか。。
それはきっと彼女とハリウッドの数々の逸話や歴史にあるでしょう。
「私は同じ演技などは一度たりともしたことはないから、怖いものなどはない」
彼女の有名な言葉ですが、最も有名な発言は男性優位社会のハリウッドや男性と
女性の社会的地位の格差を痛烈に批判した、
「男がやると尊敬される。女がやると嫌われる」
1930年代、それまで男性スターを中心に動いていたボーイズ・タウンのハリウッドは
軌道修正を迫られていました。
女性客の圧倒的な増加により女性を積極的に主人公に起用する
「女性映画」の制作が急ぎ求められる中、
銀幕の飾り物ではなく、男優達を引っ張るパワーのある女性スターが望まれた、、
そんな時代に登場したのがベティ・デイヴィスなのである。
彼女は他の女優が嫌がる様な役や尻込みする役を積極的に演じ、
迫真の名演技で観客をスクリーンに釘付けにした。
「フィルムのファースト・レディ」”The First Lady of the American Screen”
と呼ばれる由縁です。
むしろ、ウィスキーの広告起用に相応しい人生を歩んできた大女優であることが、
数々のエピソードや発言から強く伝わってきます。
このジム・ビーム広告の詳しい資料は見つかりませんでしたが、
同時期にショーン・コネリーも宣伝起用されています。
ご存知の方も多いジム・ビームはケンタッキー州クラーモントで蒸留、
1795年以来、世界で最も飲まれているバーボンの一つです。
サントリーの完全傘下となった以降、近年日本では、
レオナルド・ディカプリオ、ローラがその役を引き継いでいます。