『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #45「ラッキー」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #45『ラッキー』
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第45回作品『ラッキー』2017年米国
偏屈老人ラッキーが、風変わりな町の人々ととりとめのない日々を過ごしながら、
静かに死と向き合っていく姿をユーモアを織り交ぜて描く。
作中では「エレイン’s」という名の行きつけのバーのシーンも多く、
2017年の作品とあって、主要な現行品の酒瓶がバックカウンターに並ぶ。
なじみのバーに出かけて常連客たちと無駄話をしながら酒を飲むという毎日、
人生の終焉の時にこそ酒と共に迎えたいもの。。
そこで、今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『ブラッディー・マリア』(カクテル)
朝、目覚めるとまず煙草に火をつけ一服する。ヨガで体をほぐした後、
朝飯替わりにコップ一杯のミルクを飲む。髪を梳かし、いつもの服に着替える。
太陽が照りつける荒野の道を、ラッキーは歩く。
いつもの曲がり角でいつものトラックとすれ違い、いつもの雑貨屋でいつものミルクを買う。
そしていつものダイナーのいつもの席でコーヒーを飲みながらクロスワードパズルを解く。
ラッキーはルーティンワークのように毎日を過ごす。
夜になると、いつものバーへ出かけ、いつもの面々との時間を過ごす。
そこでラッキーが飲んでるいつものやつが、セロリの刺さった特製ブラッディー・マリア。
ウォッカベースのブラッディー・メアリーをテキーラとライムで作ったメキシコ版と
いったところで、アメリカ中南部では安価なメキシコのテキーラがスピリッツの主流、
ウォッカなどの流通以前からこういった飲み方が定着しているのだろう。
スタンダードカクテルとしての名は「ストローハット」(麦わら帽子)
バーで注文する際はこちらの通り名を、ブラッディ・マリーに入れるトマトジュースを、
ハマグリやアサリのエキスが入ったクラマトにすると「ブラッディ・シーザー」
ベースをジンに変えると「ブラッディ・サム」となります。
主演のハリー・ディーン・スタントンも実生活でテキーラを愛飲していたとか、
映画公開時にはアップリンクやテアトル梅田周辺のバーやレストランとコラボメニューを展開、
六本木のAGABE他でブラッディー・マリア、テキーラのコーヒーマティーニなど、
映画から発想されたカクテル、ドリンクが公開特別価格で提供されました。
また作品のエンドロールで流れる、ハリーに捧げる送り歌の中では、
彼にカクテルの「マンハッタン」をといった歌詞があります。
ラッキーはバーでこう皆に語ります。。
生まれる前のことを考えたことがあるかい?無さ。死んだらどうなるかって?無さ。
所有なんてまやかしだ。権力は主観的なものでしかない。無だ。虚無だ。
バーで一演説終えたラッキーに「それなら」と誰かが質問する。
「虚無の前で俺たちはどうすりゃいいんだ?」
ラッキーは答える。「微笑むんだ」。
『オールド・グランダッド』(バーボン)
夜になり、いつものバーに入ると今日も女店主のエレインが男性客を虜にしている、
エレインは気の強そうな女性だが、いつもラッキーのことを気遣っている様子。
他にバーの常連客にはエレインと30年近く同居している恋人のポーリーがいて、
彼はエレインと出会ったことで自分の人生が変わったという話を、頻繁に語り聞かせる人物。
この山師のような色男が飲んでいたのがバーボンの「オールド・グランダッド」
オレンジ色のラベルが印象的で、作品では米国流通のロングネックのスリムボトルが、
ポーリーのカウンター向かいに置かれていて、彼はストレートで飲んでいる。。
マイルドでスムースな飲み口、深い香りと味わいでバーボン通の人々に愛されています。
1796年に誕生したオールド・グランダッド。ブランド名「OLD GRAND-DAD」は、
「偉大なるおじいちゃん」という意味。名前の由来は、1882年に会社を継いだ3代目の
レイモンド・B・ヘイデンが、祖父であるバーボンの先駆者の一人、創立者ベイジル・ヘイデンの
業績を称えたもの、ラベルに描かれているのはそのベイジル・ヘイデン氏。
度数の高いパワフルなタイプ「オールド・グランダッド114」また「ベイジル・ヘイデン」
その名を冠したプレミアムバーボンなど、その他のラインアップもありますので是非。
作品に出ている酒としても、また登場人物のほとんどが老人である事、舞台がアメリカ
南部の小さな町というのもこの酒がとても良くマッチします。
古くからのスタンダードバーボンは、映画や小説にも登場しています。
小説版の007「ダイヤモンドは永遠に」でボンドはオールド・グランダッドを
氷ナシの水割り、ウイスキーと水の比率を1:1でオーダーしています。
また、この場面の引用と思われる、映画「007 死ぬのは奴らだ」ではボンドが
氷ナシをオーダー、馴染みの酒であるとサラっと言っています。
チャンドラーの小説「長いお別れ」ではマーロウが銃を持ち落胆してアパートに戻った後、
友人のテリー・レノックスにオールド・グランダッドを提供しています。
その他映画は「ヴェロニカマーズ」「バッドサンタ」「MASH」など。
曲ではジョージ・サラグッドの「I drink alone」レーナード・スキナードの
「Whiskey Rock-a-Roller」の歌詞の中でこの酒が歌われている。