映画とお酒

シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #29「お嬢さん」

『シネマに酔狂』

バーテンダーが語る映画とお酒 #29「お嬢さん」

〜映画を彩る名脇役たち〜

Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。

第29回作品『お嬢さん』2016年韓国

2016年公開の韓国のエロティックサイコスリラー映画。
監督は変態奇才パク・チャヌク、舞台は日本統治下の朝鮮。
作中ではブルジョアの生活様式に伴いワイン(葡萄酒
と呼んでいる)やホテルのレストラン、阿片入りワインなど、

逆にその他の酒が出てこないのは何故か。
それは血のようなワインの赤い色が、この作品の官能的で
妖しい世界を引き立てるよう象徴的に配置されて。。
そこで今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。

『赤玉スイートワイン』(ワイン)

1930年代の朝鮮や日本が舞台、幾つかワインは登場するも、
銘柄は不明(瓶の形状からブルゴーニュと思われる)
そこで当時、朝鮮でも日本でも一般流通していたであろう、
1907年に誕生した「赤玉ポートワイン」(現在はポルトガル
政府の抗議により名称変更)をご紹介します。

寿屋の創業者である鳥井信治郎が、1899年(明治32年)に
鳥井商店を設立。スペインから輸入した葡萄酒を販売したが
不評、「日本人の味覚に合った葡萄酒をつくる」べく幾度と
なく甘味料の配合を重ねて赤玉ポートワインを誕生させた。
当時はまだ日本にワイン醸造の土壌が乏しく、酸味の多い
輸入ワインが日本人の口には全く合わなかった。
それ故、戦後もワインと言えば赤玉のテイストとなり、
輸入ワインが市場に定着するまで時間を要することに。。

しかし赤玉と言えども当時は贅沢品ですが、劇中の人々が
口に出来たことは日本統治下とあれば尚更自然でしょう。
そして赤玉と言えば、日の丸、太陽の事。
この時代、大日本帝国を表すシンボルであり日本統治下の
朝鮮という設定にも符合します。

もう一つ大切な事。
赤玉ポートワインは1923年(大正12年)日本で初めて
ヌード写真を宣伝に用いたことで知られている。
当時としてはかなり刺激的なビジュアル、大きな話題と
なり大量に持ち去られたのだとか。
その辺りもこの作品のエロな世界観と結びついていく。
冒頭の通り、ワインは官能と結びやすいものかもしれない、
そんな作品や物語は数知れぬあるであろう。

今、昭和の私には「ワインレッドの心」が流れてきた。
「007は二度死ぬ」ではジェームス・ボンドが飲用。

『ホワイト・レディー』(カクテル)

さて、次なる映画から導かれたお酒はと思案してみると、
作品冒頭から印象的だったのは「白」という色。
秀子お嬢様の煌びやか、というよりは上品で落ち着いた
白いドレス、白い下着、白い着物。そして白い肌。。。

おどろおどろしく重厚で暗い屋敷の中で、広い庭や森の緑と
自然の光の中で、秀子お嬢様の白い衣装やその身白は、
美しいコントラストをもって一段と際立っている。
この時代、真白き衣装自体が身分を現す。
そこでカクテル「ホワイト・レディー」を。

ドライジン、ホワイトキュラソー、レモンジュースを
シェイクしたショートカクテルで女性でも飲みやすい
すっきりとした味わい、ファンも多い。
名前の由来は諸説で、モッコウバラのWhite Lady Banks、
ウェディングドレスに最初に白色を用いたと言われる
ヴィクトリア女王からとも。
またレディーが令嬢を表すことからも、作品や秀子お嬢様の
イメージに良くマッチしている。

1919年、当時有名な社交場であったシローズ・クラブの
ハリー・マッケンホルンが考案、当初はペパーミント・
リキュールをベースでその後、パリのハリーズニューヨーク・
バー に移りジンベースに変えた。
ジンベースに変更されたのは1925年のこととされる。

故に、この作品の時代には世界で飲まれていたお酒。
産業革命以降、英国の繁栄に伴ってジンやスコッチなどは、
早くから世界市場に進出しシンガポール・スリングなどに
代表されるようアジアでもポピュラーなものでした。
日本でも大正ロマンの頃はジンやミントリキュールなどが
流行、スタンダードカクテルやカクテルブックに
他に比べてジンベースが多いのもそのような理由から。

無垢で汚れのない無実な存在を象徴する「白」という色、
逆にそうでない存在を覆い隠すべくある「白」という色。

白の装いの女性にはよくよく気をつけるよう心がけを、
これは我々バーの世界での理。

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