
『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #6「死刑台のエレベーター」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #6「死刑台のエレベーター」
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第六回作品『死刑台のエレベーター』1958年仏
今回の作品中、明確にお酒を飲むシーンは
モーテルでのドイツ人旅行者と若いカップルの酒盛り程度。
しかし、夜のパリを彷徨いすがら素敵なバーやカフェが幾つも登場し、
マティーニやゴードンジン、クルボアジェなども見てとれます。
そこで今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『クローネンブルグ』(ビール)
エレベーターに閉じ込められた男、その男を探しパリを彷徨う女、
二人の約束の時間をとうに過ぎた頃『Kronenbourg』のネオンサインが
クローズアップで画面にドンと映し出されます。
更にそのネオンの点滅する光がエレベーターの男を不安気に照らし出す…
季節にもよりますが、パリは日本に比べて緯度が高く7時や8時でもまだ暗くはない。
予想外の事態に陥り困惑するこの二人に、いよいよ夜という暗い闇が訪れた、
という意味付けで象徴的なカットです。
モノクロの映画では色がない、そこで様々な表現手法やカットなどで
時間経過や空間、心情などを補うのですが、
補うどころかそこが最も大きな魅力であり、逆に作り手の色が出るところ。
クローネンブルグはフランスを代表するビールでスッキリと飲みやすい。
カフェテントや商品サインがこの映画の中でもよく見つけられます。
ベルギータイプの『ブラン』という白ビールもあり、こちらもビール通には人気。
サンジェルマンのカフェ気分で外のテラスで飲んで欲しい。
『ボランジェ スペシャル・キュヴェ・ブリュット』(シャンパン)
カーチェイスを経て裕福なドイツ人旅行者に気に入られた若いカップルに、
部屋で盛大に振舞われるシャンパン『ボランジェ』
三本を空にし酔った彼女が、盗んだポケットカメラでその場の写真を
うっかり撮ってしまう。結果、それが二つの事件の証拠となる重要なシーン。
他人への成りすましや嘘、パリのドイツ占領からドイツの敗戦、
ドイツの裕福な旅行者と無軌道な若者、
遠い国の紛争に関与し続けるフランス、戦争の英雄…
このシャンパンを介して互いにジリジリと緊張した会話が続きます。そして…
ボランジェは007シリーズで正式採用されていてこちらは有名。
『R.D』というプレステージがよく出てきます。
ピノ・ノワールの比率が高く、力強く上品さ深みともに
バランスのとれた味わいのシャンパンです。
日本市場ではモエ・シャンドンやヴーヴ・クリコなどがよく目に付きますが、
メゾン御三家といえば『クリュッグ』『ルイ・ロデレール』
そして『ボランジェ』とか。
是非一度お試しあれ、
その時はくれぐれも酔いすぎて人生最大のミステイクを犯さぬように!

