『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #16「ブエナ★ビスタ★ソシアル★クラブ」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #16「ブエナ★ビスタ★ソシアル★クラブ」
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第16回作品『ブエナ★ビスタ★ソシアル★クラブ』
1999年米国ドイツキューバフランス
哀歓漂う音楽、白い葉巻の煙。。
キューバといえばラム、ヘミングウェイ由来の
カクテルなどが有名ですが、本作でお酒を飲む
シーンは全くありません。ですが、
きっと毎日たんまりと美酒を楽しんでいる事でしょう。
(ライ・クーダが飛行機の席でメキシコビール
『テカテ』を飲んでいる程度)
その代わりと言ってはなんですが、場所を問わず、
スタジオの中でも葉巻をバカバカと吸い続けます。
インタビューなどの背景にはハバナクラブのボトルや、
アトウェイビールなどは見受けられ。。
そこで今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『ダイキリ』(カクテル)
ラムベースのカクテルの中で最もシンプル且つ、
代表的なスタンダードカクテル『ダイキリ』
材料はラム、ライム、シュガーシロップのみ、
ベースをジンに代えるとあの『ギムレット』
19世紀後半、キューバのダイキリ鉱山で働くアメリカ人、
ジェニングス・コックス氏により命名されたとか。
坑夫たちが暑さしのぎに特産のラムにライムを絞り込み、
砂糖を入れて飲んだのが始まりと言われています。
当時キューバは、スペインから独立間もない時代で、
ダイキリ鉱山にもアメリカから鉱山技師が多く派遣され
ていました。
とてつもない暑さと日差しの下での『ダイキリ』は
さぞ至福の味だったのでしょう。
『ダイキリ』と言えばハバナの旧市街のバー、
『ラ・フロリディータ』が有名で1940年代に
ヘミングウェイがこの店に入り浸っては飲んでいました。
映画の中ではロバート・レッドフォードの『ハバナ』
トム・クルーズの『カクテル』『ゴッドファーザーpart2』
ではバナナダイキリ、『アパートの鍵貸します』ではフローズン、
『クリスタル殺人事件』では毒入りの殺人道具として
とても印象的に使われています。
燦々と陽光が照りつけるカリブ海の風を感じながら、
口の中に広がるさっぱりとした風味を一度味わってみたい。
『ハバナクラブ7年』(ダークラム)
キューバラムの正統派『ハバナクラブ』
チェ・ゲバラの愛飲酒があったら先ずそれをチョイス
したいところですが、チェは至って酒はやらん派。
で、このお酒はフィデル・カストロ議長のお気に入り。
1878年ホセ・アレチャバラ・ファミリーが設立した
『ハバナクラブ』は創業者がスペインに亡命、
キューバ革命以後に国有化されました。
本国キューバではラムの八割のシェアを誇るようで、
この作品中にも3年物のホワイトラムが登場。
昔は珍しいキューバ産のラムでしたが、
最近ではその他の銘柄も手に入るようになりました。
ところで、ラムの表記には3種類あるのをご存知ですか?
『RUM』『RON』『RHUM』
この表記の違いは植民地支配の時代にどの国が宗主国だったのか
に由来します。
『RUM』はイギリス系でスコッチの製法や熟成由来、ジャマイカやガイアナ産、
『RON』はスペイン系でシェリー酒など由来、キューバやグアテマラ産、
『RHUM』はフランス系でブランデーの製法や熟成由来、
マルティニック諸島やハイチ産となります。
表記一つにも大いに歴史ありってこと。
映画では『ハバナ』『さらばキューバ』『7デイズ・イン・ハバナ』
そして大きくラムで言えば海賊の酒。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』『オーソン・ウェルズ in 宝島』
『フック』など多く海賊映画に登場します。
<追記>
『3杯のダイキリ』
それは25年ほど昔,まだ駆け出しの頃。
私の勤めるBARにはチーフバーテンダー、セカンド、
そして私を含めて3人のバーテンダーがおりました。
ある日、私が入店間もない頃そのBARの常連の旦那が、
『3杯のダイキリ』をそれぞれのバーテンダーのメイキングで
注文されました。
出来上がった『3杯のダイキリ』がカウンターに並ぶと、
『お前、それぞれのダイキリの味を比べてみてごらん』
とおっしゃり私はテイスティングを始めました。
それは技量や経験の差が味や加減に当に明らかであり、
私のダイキリはカクテルとして何とも酷いものでした。
『お前のダイキリにはお金は払えないな』
とその旦那は静かに優しくおっしゃりました。
気恥ずかしくまだまだ未熟であると感じる反面、
貴重な経験であり有難いという思いも湧いてきました。
マティーニやギムレットなども同様ですが、
そのバーテンダーの技量や経験が味や仕上がりを
大きく左右しやすく、1mlの半分であっても、
シェイカーの扱い一つでも、微妙な変化をもたらします。
その後もその常連の旦那は事あるごとに、
『3杯のダイキリ』や『3杯のマティーニ』を注文され、
ご自身が飲まれない3杯分のカクテルの料金を払いました。
『お前の酒、少しはマシになってきたじゃないか』
それから今まで何杯のダイキリを作ってかきたのか分かりませんが、
その旦那は今でも私のBARにいらして頂いていて、
たまに『1杯のダイキリ』を注文されます。
その『1杯のダイキリ』を飲み終わると、
その旦那は私に決まってこうおっしゃるのです。
『お前のダイキリは美味いよ、でもまだまだだけどな』