『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #7「リトル・ミス・サンシャイン」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #7「リトル・ミス・サンシャイン」
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第七回作品『リトル・ミス・サンシャイン』2006年米
今回の作品中、明確にお酒を飲むシーンは0割0部0厘。
お酒なぞ飛び越えて、爺やがヘロインを愛おしく吸引。。
逆に瀕死の叔父を迎えた食卓にそびえる無慈悲なスプライトが、
この家族の有り様を物語っていたり。。
其々が問題を抱える家族にとって、かえってお酒は禁物かも。
そこで、今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『コロナビール』(ビール)
今回はポスターやワーゲンバスなど、
この作品のメインカラーとなっている鮮やかな
『黄色』から着想しました。
世界的に流通するメキシコのライトビール、コロナ。
お馴染みの黄色いラベルと淡い黄金色は爽やかな味わい。
ライムの緑色とのコントラストが一つの完成作品のようで、
有形世界遺産に推薦したい。そしてボトルに落とす前に、
僕は先に絞る派です。
コロナは太陽の電子放射の層で、皆既日食で見えるアレ。
リトルミスサンシャインのタイトルから太陽との
関連付けでもあります。
そして黄色という、その色自体が太陽を象徴するもの。
加えて、この家族の旅の出発点はニューメキシコ州アルバカーキ。
メキシコと国境を隣接し、メキシコ料理はごく日常的、
きっとコロナビールやテキーラなど、
この家族にとって馴染みあるものと想像できます。
映画の中では、毎度食卓にはフライドチキンのバケツ、
それにうんざりするバラバラな家族像が描かれます。
が、ここは是非、フライドチキンにコロナビールといきたい。
食通の東海林さだおが、ビールに合うアテのランキングで
KFCのチキンを上位推薦していたのを思い出す、あゝ納得。
『ミモザ』(カクテル)
黄色い花をつけるミモザの色合いから名付けられた
シャンパンとオレンジジュースの華やかなカクテル。
本来ならシャンパンが本道ですが、
巷ではスパークリングワインで代用される事が多いようです。
シャンパンベースとなるとフランス的なイメージとなりますが、
鮮やかな黄色と嗜好からこの作品的に意味を導き出したいと思います。
アルバカーキから約1000キロ、様々なアクシデントを乗り越え、
娘の夢を叶えたい一心で、家族一体となり目指すは
コンテスト会場のカリフォルニア。
時間までに到着しない限り、全てはシャンパンの泡ならぬ水の泡。
そんな家族の未来の鍵を握る終着点、夢のカリフォルニア。
そこで、カリフォルニア産のスパークリングワインを使い、
カリフォルニア州の特産品であるオレンジで割ったらどうだろうか、
という素敵な発想が。
アメリカ西海岸的なミモザ、その色と相まってこの作品のイメージへ。
何故かホッとするようなエンディングに高価なシャンパンでは
似つかわしくない、でもこのミモザならちょうどいい。
なので、このミモザを『リトルミスサンシャイン』と名付けます。
<追記>
バーでは、ミモザを始め、シャンパンベースのカクテルは
スパークリングワインで代用する事が多いのですが、
勿論、本来のシャンパンを指定する事も可能です。
その際、普段からシャンパンをグラス売りしているような
ワインバーでもない限り、シャンパン1本分の代金が発生します。
通常シャンパンは飲みきりであり保存も利きません。
ピッコロサイズもありますが稀で、ハーフや場合によって
フルボトルとなる事もあります。とても高価となる為、
手頃な価格でスパークリングでの提供が慣例となっているのです。
一方で、完成された作品であるシャンパンを何故割って飲む?
これは宮廷などで王族貴族、ブルジョワ(シャンパンを嗜むのが常である)
がアレンジした言わば乙な試みによるもので、
時間もお金も有り余る人々のこうした遊び心や好奇心によって、
お酒に限らず、ファッションや料理、芸術などがつき動く、
新たな文化が作られる。
という意味で野暮どころか非常に大切な一面があります。
それは甲を知り尽くした者々にしか実現できない。
甲を知らずの乙、乙のゆとりがない甲、
知らずに本道を語るとかえって野暮になる。
そこで、前段からの話、
シャンパンを二人でハーフボトル、ないし四人程でフルボトルをオーダーし、
一杯目はそのまま乾杯をする。
二杯目以降は、フレッシュオレンジジュースをオーダーしミモザに、
あるいは砂糖とビタースでシャンパンカクテルに。。
ほら、甲を踏まえた乙となった。