『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #8「ショーシャンクの空に」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #8「ショーシャンクの空に」
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第八回作品『ショーシャンクの空に』1994年米国
今回の作品中、ほとんどのシーンが刑務所の中。
なので酒は皆無かと思いきや、冒頭から主人公泥酔、
五月の屋根の上でのご褒美ビール、調達屋からの
小瓶ウィスキー(銘柄不明)出所後にレッドの働く
ストアー背景などに見てとれます。
重い制約のある世界だからこそ、お酒が大きな意味を持つ。
そこで、今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『フォア・ローゼス・ブラック』(バーボン)
この映画の始まり、妻の不倫現場の外で待機する主人公。
既にかなり酔っている上に、感極まり拳銃を改めながら、
車の運転席で小瓶のバーボンを何度も口へと運ぶ。
降りる際に瓶は地面で割れ、フラフラとその現場へ…….
このバーボンの名は『ローズウッド』
相当以前に流通していたヘブンヒル蒸留所の銘柄で、
バーでの仕事以来、未だに現物は見たことがありません。
今ではラベルや空き瓶が資料として残っている程度。
この後、ハメられた数々の状況証拠によって、
殺人犯に仕立てられ、冤罪でショーシャンクへGo。
この映画の起因となる最も大事なシーンです。
頭脳明晰で忍耐力、人心掌握に長け、
あの見事な脱獄までやり遂げた冷静な主人公が、
たった一晩の酩酊や判断で人生が激しく狂ってしまう。
このバーボンの味はかなり魅惑的なものだったのでしょう。
いやむしろ、実は冤罪でないのでは?と思えてしまうほど。
今回は、ローズウッドの黒いラベルと赤のコントラストから、
フォア・ローゼス・ブラックを選びました。
イエローラベルよりやや長い熟成のデラックス版、
香りが良く飲みやすい、女性にもお勧めのバーボンです。
しかし飲み過ぎは禁物ですよ。
気がついたら塀の中で、
キャッチボールが上手になってしまうので。
『ストーン・ビール』(アメリカンビール)
とても印象に残る爽やかなシーン。
冷酷な刑務官の相続税運用の手引きをするご褒美に、
囚人仲間に冷えたビールを飲ませて欲しい。と粋な主人公。
五月の気持ち良い風の中、作業を終えて屋上で飲むビールが
何とも美味しそうに見える。
この時のビールはデトロイトの老舗ブリュワリー、
『ストロービール』
残念ながら国内流通のみで日本未入荷、アメリカ旅行の際に
探してみたら面白いのでは。
ボヘミアンタイプのビールでチェコのピルスナー製法、
ラガータイプですが鮮やかな黄金色と爽やかな味わいが特徴。
映画では、このエピソードをきっかけにして、
主人公は囚人仲間の信頼を獲得し、刑務官側の金融指南を
任される事になる、その後へのターニングポイントになります。
今回は、アメリカのビールでラベルのデザイン、ロゴの感じが近い
『ストーン・ビール・デリシャス・IPA』をチョイス。
最近ブームのクラフトビール、IPAとはインディアンペールエールの略で、
大英帝国時代、船での長期輸送に耐えられるよう、
アルコール度数やホップ含有量を高めた高濃度ビール。
深い味わいや複雑な香り、銘柄ごとの個性が際立ちます。
流通やコスト事情か、近頃は缶のビール製品も増えましたが、
ここはやはり瓶ビールのボトルと行きたい。
映画のように氷のつまったバケツに無造作に刺さっている感じがいい。
そして、あらゆる世界のビールで最も旨いビールは。
刑務所の中で飲むビールなのかもしれない。。
<追記>
アメリカのビールと言えば、バドワイザーやクアーズのような
ライトビールが多いイメージですが、
最近ではブルームーンのようなベルギータイプを始め、
様々なクラフトビールが盛んに作られています。
閉鎖した蒸留所などが独立系のブリュワリーに変わったり、
東・西海岸のレストランやバーでも普通に扱われています。
日本でも内外多数の銘柄のクラフトビールが出回るようになりました。
若い世代が親世代のようにハードリカーを多く飲まない、
というのは日本に限らず世界的な傾向のようです。
飲んでもファットのない蒸留酒とソーダ、ビールも杯数を飲まないなら
少々値段が高くても、質や個性のクラフトビールが好まれるように。
多様性が求められる結果、グローバル化戦略の結果、
より多くの選択肢が増えましたが、
昔からの古き良きものの減少に繫がっているのも事実。
ここ数年、多くの好きなお酒がこの世から無くなってしまった、
残念。