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『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #54「ワイルド・アット・ハート」

『シネマに酔狂』

バーテンダーが語る映画とお酒 #54『ワイルド・アット・ハート

〜映画を彩る名脇役たち〜

Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。

第54回作品『ワイルド・アット・ハート1990年米国

デヴィット・リンチ作品で同年パルムドール受賞、
セックスと暴力に塗れた男女の逃避行を
独特の映像感覚で描き出したロードムービー。
作品中、クセの強過ぎる面々が様々なシーンで酒を、
ウィスキーやブランデー、サルーンでのビール、
しかしその多くは銘柄不明。
そこで、今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。

『ジャック・ダニエル』(テネシーウィスキー)

ワイルドなハートを持て余す若いセイラーとルーラは、
母親の執拗な追っ手から逃げ「ビックツナ」という名の街へ。

夜になるとモーテルのテラス席には様々な人々が集まり、
旅先ならではの初対面同士やや牽制し合った会話が展開する。
旅回りの一座だろうか、巨漢の女衆や座長と手下らしき男、
テーブルを囲む面々も怪しさ満載の曲者だらけ。。

何人かでテーブルを囲んでいる一人、ジョン・ルーリーが
セイラーを嘲笑しつつも琥珀色の酒を勧めてくる。
ここで登場するのがジャック・ダニエル

以前「ストレンジャー・ザン・パラダイス」に於いて
ジャック・ダニエルが頻繁に登場ご紹介しており、
ここで再度ジョン・ルーリーとジャックの組み合わせは
もしや敢えて意図的な配置であるのではと予感させる。
きっと知っている人はニヤリとするであろう。

その他にテーブルにはクエルボ・ゴールドが見て取れ、
テキーラという記号が南部感を醸し出す。
そこに、満をじしてウィリアム・デフォー演じるボビーが
現れて「片目のジャック」の話を始めるのだが、
ここもジャックという名が酒の名とフックしているのは、
やや深読みも過ぎるだろうか。。

ほぼ全編、頭がどうかしちゃってる人と気持ち悪い人
しか出てこないが、作品のデフォーは一際イカれている。
その後、セイラーとパンスト強盗へと疾走し。。

映画の中に頻繁に登場する酒、ジャック・ダニエル。
「シャイニング」「セント・オブ・ウーマン」
「007 ゴールデンアイ」など多数。

マティーニ』(カクテル)

強烈な色彩、タバコや炎の凄まじい程のクローズ・アップ、
強調されたノイズと音、グロテスクなシーンの数々。

ウィリアム・デフォー演じる歯茎むき出しボビーも強烈だが、
本作に於いて強烈な印象を残すのはダイアン・ラッドが演じる
ルーラの母親のマリエッタであろう。
現に本作でアカデミー助演女優賞にノミネートされている。

オズの魔法使いを下敷きにしたストーリーが随所に散見され、
正にマリエッタは悪い魔女という役回りになります。
真っ赤な口紅で顔中を赤く染めあげて怒り狂う姿は、
映画中盤の一つのクライマックスでありましょう。

映画冒頭からセイラーの電話をルーラに取り次がず、
「殺してやる」と怒鳴り散らしながら大振りのグラスの酒を
煽り飲んでいる。これがご紹介する「マティーニ

また、映画の終盤に娘ルーラはマリエッタの写真を納めた
写真立てに腹立ちまぎれに手にしていたコップの水をかけ、
セイラーとルーラがめでたくハッピーエンドを迎えると、
マリエッタは溶けるようにして消え残ったのは真っ黒な紙。

これは、オズの魔法使いの中では、
『ドロシーは怒って西の悪い魔女にバケツ一杯の水をかけました。
すると、魔女は叫び声を上げ、溶けてしまいました』
の一説に符合し悪い魔女の退場の仕方はどちらも同じになります。

ここでも失意に耽るマリエッタの手には「マティーニ
マティーニ」で始まり「マティーニ」で終わります。
マティーニ」は多くの映画に登場するカクテルの王様だが、
こんな狂気めいた使われ方は珍しいかも。。

セイラーとルーラが狂っているのか、マリエッタが狂っているのか、
それとも、そもそもこの世界が狂っているのか。。

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