『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #52「燃えよドラゴン」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #52『燃えよドラゴン』
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第52回作品『燃えよドラゴン』1973年香港米国
香港の伝説的スター、ブルース・リーのハリウッド進出作で、
世界中にカンフーブームを巻き起こし、リーの代表作となった
傑作アクション映画。
作中のお酒のシーンは僅かにだが洋酒が見受けられ、
リーの前作までとは違いインターナショナルな雰囲気。
巷には「ドラゴン」「龍」の名を冠す酒は多数あれども。。
そこで、今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『ジョニー・ウォーカー・レッドラベル』(ウィスキー)
先ずは映画冒頭「Don’t think, Feel」の名言の後、
国際情報局のブレイスウェイトとリーとのシーンで、
極秘資料やフィルムを鑑賞し、ハンの要塞島の内偵を
リーに依頼する場面。
ここで何本か酒が並んでいるワゴンからウィスキーを注ぎ、
リーにも一杯勧めるがそれをリーらしい涼しさで断わる。
ここで登場しているお酒が今回ご紹介する、
『ジョニー・ウォーカー・レッドラベル』です。
当時、香港は英国領であり市場にはスコッチウィスキーが、
多く流通していた事を考えるとごく自然な演出でしょう。
今では千円足らずで手に入るこのジョニ赤も、
1973年当時ではまだまだ庶民の手の届かない高級品。
関税のかからない香港やシンガポールのお土産で、
スコッチウィスキーが涙ものに喜ばれたという時代です。
このブレイスウェイトの存在、また英国人流のティーや、
スコッチウィスキーなどの配置が作品にスパイ映画の香りを
より漂わせ、世界公開に向けて厚みを持たせています。
1909年に創業者ジョンの愛称に因んだジョニー・ウォーカーの
ブランド名で販売、『ジョニー・ウォーカー・レッドラベル』は、
1945年以降の世界で最も売れているスコッチウイスキー。
故に、他の映画作品にも追いきれぬ程に登場しており、
「トミー」「仁義なき戦い」「秋刀魚の味」「戦火の勇気」など、
「硫黄島からの手紙」では栗林中将の愛飲酒として。
又、洋楽曲の歌詞の中でも、レイナード・スキナードや
エリオット・スミス、多数の曲中で歌われています。
『ビスキー・ナポレオン』(コニャック)
香港から船でハンの要塞島へ着いた格闘家御一行様。
船上では格闘家其々の牽制や交流などもありつつ、
上陸した途端に怪しい香りがプンプンと漂って…
それはハンによる前夜の饗応でピークへと達する。
組み合う相撲取りや京劇、猿芸にチャイナガール、
周囲を取り巻く出処不明の謎めいた面々、鳥の鳴き声、
豪華だが、あまりにストレンジ過ぎる料理の数々…
美女達を複数指名状態に突入した色男ルーパーは、
トールグラスに注がれた琥珀色の酒を飲んで、
楽しんではいるものの最低限の警戒は怠らない…
ここで飲まれテーブルに置かれた黒い寸胴のボトル、
『ビスキー・コニャック』をご紹介します。
恐らくは当時のビスキーVSOPかフィーユ辺りかと、
しかし残念ながら現行品のビスキーは日本に未入荷。
拠って、当時物の『ビスキー・ナポレオン』が入手出来、
ランクアップ同品として取り扱いとしました。
香港が舞台ですがフランス産のコニャックを御用意、
そこに大ボスのハンによる「おもてなし」の心遣いと、
同時に彼の教養や嗜好の高さが見え隠れします。
(007の大ボスも同様の演出があります)
今回の『ビスキー・ナポレオン』は台湾向けの一本で、
ビスキーを始め、コニャックを当時の中華圏富裕層が
好んで飲んでいた可能性もうかがえます。
1819年にアレクサンドル・ビスキーが創業、19世紀末には、
コニャックメーカービッグ3の一つへと成長。
1898年に描かれたミュシャのポスターなども有名です。
その後のシーンでは、ローパーが部屋でブランデーグラスを
持って客人に対応していますが、別物を用意とは考えにくく、
恐らくは同様にビスキーでありましょう。
余談ですが千葉県産の日本酒で「Don’t think, Feel」という
銘柄の日本酒があり、版権に触れず中々のアイデアにて。
機会があればご賞味を!