映画とお酒

『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #10「花様年華」

『シネマに酔狂』

バーテンダーが語る映画とお酒 #10「花様年華」

〜映画を彩る名脇役たち〜

Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。

第10回作品『花様年華』2000年香港

1962年、香港が舞台の大人の恋愛ロマンス。
幻想的な雰囲気とスローなテンポも相まって、
付かず離れず、まるでタンゴのような映画だ。

うっとりと映像だけで酔いしれてしまうほど、
だからかこの作品にお酒のシーンはほとんどない。
いや、かえってお酒は必要ないだろう。

お酒の持つ力や意味が、男女の想いの純度や密度を
悪戯に薄めてしまうだろうから。
恋は素面だからこそ心底から酔えるもの。
そこで今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。

『ホワイトホース12年』(ブレンデッドスコッチ)

1963年、チャウはチャン夫人と別れ、香港を離れて
シンガポールに移ります。
そこでビンと屋台風の飲み屋で飲んでいたのが、
スコッチウィスキーの『ホワイトホース』
画面右側にポケットサイズのボトルがわずかに
確認できます。

そこでチャウはこう話します。

「知ってるか。昔の人のやり方だ。大きな秘密を
抱えている者はどうしたと思う?
山で大木を見つけ、幹に掘った穴に秘密を囁くんだ。
穴は土で埋めて、秘密が漏れないように永遠に
封じ込める」と。

この作品で重要となる場面です。
劇中で唯一と思われるお酒を飲むシーン。
そしてよく見るとチャウは指輪をしていない。
ここシンガポールでも、香港でも、
常に男と女は擦れ違うだけなのだ。

シンガポールは香港同様、英国領からの国際都市で、
1960年代にスコッチウィスキーは珍しいものでは
なかったと思われます。
ホワイトホースは白馬のマークでお馴染みの、
スコッチの代表銘柄。スクリューキャップを初めて
導入し世界での販売量を拡大しました。

作品ではファインオールドのスタンダード品ですが、
今回は日本市場限定の12年物をチョイス。

擦れ違うばかりだったあの頃を思い出して飲んでみては。

『貴州茅台酒(マオタイ酒)』(中国白酒)

毎回、お酒の全く登場しない作品であったとしても、
様々な関連付けやイメージでお酒を選んでいますが、
今回はこの作品の何とも美しい世界観、赤い色、
香港、中国などから『貴州茅台酒』を。

この酒は1915年に開催されたサンフランシスコ万博で
金賞を受賞したことなどから、1951年より「国酒」
と称するようになった最高級中国酒です。
毛沢東がリチャード・ニクソン大統領をもてなし、
周恩来が田中角栄首相をこの酒で接待したことや、
実際中国ではしばしばお祝いの宴席で乾杯に用いられ、
名実ともに国酒と呼ばれています。
いつかキネマ倶楽部での香港、中国映画の回に出そうと
思っていて『花様年華』はそれにふさわしい作品と感じ
ました。

1960年代当時でも特別な瞬間やセレブ達の間で
きっとよく飲まれていた、そんな想像が膨らみます。
度数は50度以上と高いのですが、熟成感ある独特の
華やかな香りと深い味はいつまでも続きます。

現行品でも500mlのボトルで2万円ほど!
高価なうえ生産量も限られ、中国で出回っている半数は
偽物と言われているようです。
ワインのようにビンテージ品があり、数十年前のもので
数百万以上するものも珍しくない。

このお酒をごくゆっくりと味わい、その香りを嗅ぎながら
『花様年華』を鑑賞したら、あゝ言うこと無し。

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