『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #13「タンポポ」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #13「タンポポ」
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第13回作品『タンポポ』1985年日本
ラーメンウェスタン!
まるでダメなラーメン店、それを切りもりする未亡人店主と
癖のある登場人物達との再興サクセスストーリー。
食を中心に、エロや人の本能を織り交ぜたオムニバスには、
様々な映画のオマージュ、そして伊丹監督らしい毒やウィットが
各所に散りばめられています。
文化人であり粋狂であった伊丹十三、劇中に登場する料理や
お酒、その他細部にまで行き届いているわけで。。
そこで今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『ヴーヴ・クリコ・ポンサルタン・イエローラベル』(シャンパン)
作品のファーストシーンは伊丹らしく映画館から。
役所広司演じる洒落たマフィアと女が座る席の前に、
次々と豪華な料理とお酒が運びこまれてくる。
『お、そっちも映画館だよね?』
『そっちは何を食べてる?』と観客に問いかける。
その時『ポン』と抜栓されているのがヴーヴクリコ。
この映画館のシートは全て鮮やかな黄色で、
その背景にもよく似合っている銘柄。
そして上映中のスナック菓子の音を牽制した後、
『人間最期の映画を俺は楽しみにしている』
とラストシーンへと繋がっている実は意味深い場面。
鮮やかな黄色いラベルが印象的、シャンパンの代表銘柄の一つ
『ヴーヴ・クリコ』その意味は『クリコ・未亡人』
27歳でご主人を亡くした後、新しい製法や国際戦略、
人材発掘などメゾンを揺るぎないものにした偉大なグランダム。
その辺り、この作品の『未亡人タンポポ』と掛っている
可能性が大いにあり、だってね伊丹十三ですから。
ピノ・ノワール種を主軸にピノ・ムニエとシャルドネが加えられ、
鮮明なボディを持ちながら爽やかな口当たり。
ロゼ・シャンパンを初めて造ったのもこのヴーヴクリコ、
映画では様々な作品に登場しています。
『キリンラガービール・中瓶』(ビール)
作品中では、ハイネケンやコルドン・シャルマーニュなども
登場していますが、やはりラーメン屋といえば瓶ビール。
大雨の中、運転手二人が何とか滑り込んだラーメン屋。
西部劇ならローカルサルーンなのでしょうが、
やはり地元客がいかがわしいのはどちらも同じ。
未亡人タンポポにしつこく絡むメキシコ人ガンマン集団の
ボスにしか見えない安岡力也に、
『食事中なんだ、静かにしてくれないか?』
とユルブリンナー山崎努が静かに制してナルトをピンと投げる。
強面のその顔にクルクル模様のナルトがシュールに張り付いて、
さぁ戦いのゴングが鳴り響く。。
挑発された力也がキリンラガーの瓶をカウンターに『ドン』と
叩きつける。ここも西部劇ならバーボンやテキーラのところ。
そんな風に見るととても面白い。
従来のキリンビールは1989年にキリンラガービールと
名称を変え現在に至ります。伝統的なラガー製法に基づき、
戦後から高度成長期には50%以上のシェアを誇った
日本を代表するビールの銘柄です。
故に古い日本映画、白黒の作品などでキリンビールは頻繁に
登場しています。
街や店の古い看板やネオンサインなどでも
当時の雰囲気を感じとれるでしょう。
<追記>
ヴーヴ・クリコは様々な映画の中に登場しています。
その鮮やかな黄色いラベルはカラーの映画作品なら、
画面の隅にあっても容易に見分ける事ができます。
『カサブランカ』『プリティーウーマン』
『ゲーム』『アイ・ラブ・トラブル』『ロープ』
『歴史は夜作られる』『めぐり逢い』
『予期せぬ出来事』『悲しみよこんにちは』
『黄色いロールスロイス』『完全犯罪』etc…
十九世紀のデンマークが舞台の『バペットの晩餐会』
では既に世界最高のシャンパンとして登場します。