『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #37「ポンヌフの恋人」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #37「ポンヌフの恋人」
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第37回作品『ポンヌフの恋人』1991年仏
レオス・カラックスによる監督作品で、
『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』に続く
アレックス三部作の三作目。
作品中、随所にワインを飲むシーンが出てくる。
カフェで、バスの中で、橋の上で。
多くは紙袋の包まれたりペットボトルだったり、
ラストの雪の降る橋で二人の再会にはシャンパン、
ラベルも見えるも銘柄は不明(実在しない可能性も)
また、睡眠薬入りのワインがこの物語を動かして。。
そこで、今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します
『アレキサンダー』(カクテル)
この作品、また三部作の主人公であるアレックスより
カクテル「アレキサンダー」をチョイスしました。
生クリームとクレーム・ド・カカオを使った
チョコレートケーキ風味にして甘く強いカクテル。
ベースのお酒がブランデーでフランスにも紐付きます。
私が働き始めの頃、コニャックはまだ高価な酒で
カクテルではフレンチブランデーを使っていました。
今では普通にコニャックが用いられ贅沢な限りで。
ナツメグを少量使ったりしますが、これは供され
始めた頃の日本ではまだ乳製品が一般的でなく
生クリームの匂いを嫌う者が多かった名残のよう。
作品に戻ると主人公のアレックスはカラックス監督を
投影した分身であると評されたりします。
強烈なインパクトと個性のある青年は三部作を通して
物語を綴り寓話的な世界を疾走します。
いずれも男女の恋の物語、このアレキサンダーの甘さ
その甘さや香りに潜み後からやって来る強い酒が
そんな雰囲気にマッチします。
1920年代には一般的だったスタンダードカクテル
そして外せないのが映画「酒とバラの日々」
最初は酒を毛嫌いしチョコレートが大の好物だったが
酒呑みの夫から勧められた「アレキサンダー」の口当たりの
良さに惑わされアルコール依存症に陥って行く人妻の
姿が描かれている。こちらも是非!
『レ・パリ』(ワイン)
フランス映画でパリとあってお酒といえばワイン。
ホームレスの物語なので、作品中では盗んだのか
掻き集めたのか昼も夜も飲んでいるシーンが多い。
実はそんな生活も悪くはないのかも。。
フランスの流通品で最も安価なワインならと思い
見てみるとその辺はあまり日本入ってきていないのと、
さすがフランス、ペットボトルなんてのも無い。
ではパリが舞台でありラストセリフ「まどろめ、パリ」
から銘柄にパリと入るものをと、その名もズバリ
「レ ・パリ」
ボルドー産のフルボディー、メルロー、カベルネ
ソーヴィニヨンカベルネ・フラン、ホームレスに
とってはこの味わいもかなり贅沢なものであろう。
安ワインこそこの映画にふさわしい。
睡眠薬を使った昏睡強盗を始めた二人、カフェや
レストランで客のワインや酒に混入し金を稼ぐが
その稼いだ大金をあっさり捨ててしまう。
その同じ方法で女は恋人の元を黙って去っていく。。
いつだって男と女は難しい。
橋というのはこちらからあちらへ渡るための場であり
それ自体はどちらにも属さない境界であれば
封鎖された橋という場は、どこにも属すことのできない
行き場のない者のアジールとなる。。
そこにワインはあったほうがいい。。