『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #48「時計じかけのオレンジ」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #48『時計じかけのオレンジ』
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第48回作品『時計じかけのオレンジ』1971年英国
作中には幾つかお酒のシーンが登場します。
印象的なファーストシーンのミルクバー「コロバ」
これはドラッグ入りのミルクでブッ飛び系らしい。
冒頭に襲撃される浮浪者の手にはホワイトホースの瓶、
サプライズ訪問のリビングには銘柄不明のボトルが何本か、
そしてアレックスの自宅にはドランブイやジョニ黒がある。
アレックスが薬を盛られたワインはシャトー・サン・ユスチフ
メドックは架空の銘柄で「ユスチフ」というネームのところに、
近未来での共産化、ソ連の影響など粋に匂わせている。。
そこで、今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『スクリュー・ドランバー』(カクテル)
やはりここは、オレンジを使ったカクテルが良いだろう。
そこでウォッカをオレンジジュースで割った、
「スクリュー・ドライバー」をチョイスします。
もう一つの理由、近未来の世界で若者達に話されている言葉、
「ナッド・サット語」は韻を踏んだ繰り返しや置き換え、
それらはスラブ語訛りであり、混ざり合ったりもしている。
そこで、ベースの酒がロシアのウォッカであるという点で、
このカクテルを選んだ次第です。
さて、問題は「オレンジ」と云うキーワード。
様々な由来や諸説あり主立った物を…
古くよりイギリスの労働者階級の中で使われた、
“Queer as a Clockwork Orange”
(時計じかけのオレンジのように奇妙な)
これは、表面はまともに見えるがその中身はかなりヘン、
と云った意味のスラングがあったようで、
イギリス的にタイトルへ直接結びつきます。
また、言語学者でもある原作者のアンソニー・パージェスは、
マレーシアでの生活経験があり、マレー語の「オラン」
(オラン・ウータン)が「人」を表す事から、「オレンジ」
とのダブルイメージへと起想された話など。
原作中では、若者言葉でオレンジが「人」に繋がる言い回し
として想定出来るセリフや、襲撃される作家が執筆中の
タイトルが映画の表題であると云うもの、
これは原作者のパージェスに於いて実際に起こった事で、
灯火管制の中、妊娠中だった妻のリンは4人の米軍の脱走兵に
陵辱され暴行を受け、その後流産すると云う痛ましい経験、
それが本作を書く大きなきっかけとなっている。
みずみずしい若者のメタファーである「オレンジ」
ゴッホの絵画や太陽が眩しかったから、といった、
私達を魅了して止まない、その狂った果実……….
『グリューナー・ヴェルトリーナー ベートーヴェン 第九 ラベル』(ワイン)
主人公の不良アレックスが愛して止まないルートヴィヒ、
早い出所の見返りに受けた新しいルドヴィコ療法によって、
最も敬愛する第九を聴くと吐き気に襲われ倒れてしまう身体となる。
本作の中心に据えられた大切な要素のベートーベンの第九、
そこで、何かベートーベンにちなんだ酒をと思いワインを。
ベートーベンのお馴染みの肖像画と第九があしらわれたワイン、
『グリューナー・ヴェルトリーナー ベートーヴェン 第九 ラベル』です。
音楽の都、オーストリアのウィーンにある1683年設立の歴史ある
ワイナリー「ヴァイングート・マイヤー・アム・プァールプラッツ 」
品種はグリューナー・ヴェルトリーナー 100%でキリっと辛口、
オーストリア国内のみならず、数々の賞を獲得しています。
ただ、ラベルにベートーベンが印刷されたオーストリアワイン、
と云う土産物程度の話ではなく、理由は更にもう一つ、
ベートーベンが住み、あの第九交響曲の作曲に着手した家屋、
「ベートーベンハウス」がこのワイナリーの敷地内にあるのです。
これでアレックスの第九へと繋がって行きます。
このベートーベンが愛した場所には世界中のクラシックファン、
また毎年2000〜3000人の日本人観光客が訪れています。
最後にワインを選んだ理由をもう一つ、
諸説あるベートーベンの死因の一つに、アルコール肝硬変(鉛中毒)が
あります。これは遺髪の中に通常の40〜100倍の鉛が検出された事に
因りますが、当時のワインには甘味料として鉛が使われており、
死因までには至らずとも、ベートーベンが大のワイン好きであった
事は間違いないでしょう。。
昨年はベートーベン生誕250周年のメモリアルもコロナ禍で…..
今年の年の瀬は第九を聴きながら是非このワインを!