『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #11「ゴッドファーザー」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #11「ゴッドファーザー」
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第11回作品『ゴッドファーザー』1972年米国
マフィアファミリーの壮大な叙事詩、作品自体が
クラッシック交響曲のような荘厳な重厚感と共に、
多くのシーンで様々なお酒が登場します。
何より他の作品に比べてお酒が実に美しく描かれている、
執務室やダイニングルーム、レストランや結婚式。
人生の歓喜と失望、駆け引きや裏切り、そんな
時こそお酒の存在は欠かせないもの。
何より『ゴッドファーザー』というカクテルが
あるくらいですから。
そこで今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『プリンシぺ・ディ・コルレオーネ・クラッシック・イル・ロッソ』(イタリアンワイン)
作品中の多くのシーンに登場するワインは全編を通して
とても身近なお酒として登場しています。
ファミリーの一員はワインをピッチャーで飲むなど、
イタリア人らしくワインを日常のお酒として捉えています。
今回はシチリアに本当に実在する、
ドンの出世地コルリオーネ村唯一のワイナリーで、
且つ映画「ゴッドファーザー」へワイン提供した
『PRINCIPE DI CORLEONE』をご紹介。
ラベルに透かしのように描かれた「ハートを掲げた獅子」は、
ワイナリーのシンボルマークであると共にコルレオーネ村の
紋章でもあります。
作品中シチリアでの食事会や結婚式など重要なシーン
(全て重要なのですが)に
このワイナリーのお酒が使用されているようです。
スパイシーで若いドライフルーツの香り、
豊かなボディのに滑らかなタンニン・果実味・酸味の
調和が取れた味わいが特徴。
「近頃ワインをうまく感じるようになった」
と家督をマイケルに託し隠遁するドンが呟きます。
ゆっくりとワインを味わうこともなかっただろう、
ゴッドファーザーの壮絶な人生を物語っているのでしょうか。
そしてワインはよく『血』に例えられます。
流れた多くの血、家族の血の結びつき、キリスト教、
深く考えたらどこまでも行ってしまいそう。
『ゴッドファーザー』(カクテル)
映画のタイトルの名を冠したお酒の初登場。
ゴッドファーザー公開の後、パート2の公開を記念して
作られ、今やスタンダードカクテルの代表の一つです。
ウィスキーとアマレットのみ、実にシンプルなレシピですが、
アーモンド風味の芳しさと甘さが濃厚なウイスキーの味を
包み込むどっしりと深いカクテル。
作品のイメージと重なりこれはゆっくりと味わいたい。
作品はアメリカに生きるイタリア系移民の家族愛描いていますが、
そのイタリアを代表するリキュールの一つがアマレット。
イタリアの家族愛につながる温かみと甘さをカクテルの中に漂わせています。
ウィスキーの指定はありませんがスコッチを使う事が多いようで、
これはパート2の禁酒法時代から密輸酒などで
マフィアファミリーが増大した背景を加味すると、
バーボンよりスコッチの方がごく自然のように感じます。
その他パート2では、キューバで様々なラムベースのカクテル、
西海岸的な酒、禁酒法時代など更にお酒が登場。
ベースのウイスキーをブランデーに変えると
「フレンチ・コネクション」というカクテルで、
ヘロイン密輸のフランスルートを追うジーンハックマンの映画タイトル。
ウォッカに変えると「ゴッド・マザー」となります。
他に「ブラックレイン」「マイフェアレディー」など、
映画の名がついたスタンダードカクテルがあります。
逆に「テキーラサンライズ」や「シンガポールスリング」
のようにカクテルの名から作品タイトルになる事も。
<追記>
作品中、敵対マフィア「タッタリア」との面談で、
彼等のシマにある古びたBARに通されると、
タッタリアはバーテンダーとして目の前に立っています。
これは私的にはシビれるシーンで、我々の存在や歴史、
意義をとある一つの図で表しています。
言葉では何とも難しく長くなるので、ここは、
「BARは簡単ではない」とでもしておきましょう。