『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #15「わたしを離さないで」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #15「わたしを離さないで」
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第15回作品『わたしを離さないで』2010年英国米国
ターナー絵画のような美しい風景の中、
クローンである若者達の残酷な運命が
淡々と、そして静かに描かれるSF恋愛物語。
酒でも飲んでないとやりきれないでは?
しかし作品中に酒のシーンは皆無、コーラのみ。
臓器ドナーゆえ身体的に影響のあるものは禁じられて
いる設定なのですが、クローンだって人だって、
同じ終了へと向かう運命ならば酒と共にあった方がいい。
そこで今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『ピムスNo.1』(リキュール)
SFでありながら過去の時代を描いた事もあり、
作品には英国の伝統的でクラシカルな雰囲気が
至る所に漂っています。
そこでマッチしそうな英国を代表するサマードリンク、
『ピムスNo.1カップ』をセレクトしました。
ジェームス・ピムが1840年、ジンをベースに
リキュールや柑橘系フルーツエキスなどを配合した
オリジナルカクテル『ピムスNo.1カップ』
リキュールをベースにフルーツやミント、キュウリ、
炭酸飲料を加えた暑い夏に合う爽やかな喉ごし。
(当時キュウリは高価な輸入品であったとか、
色合いと風味が不思議とこのカクテルに良く合います)
英国の夏らしい夏はとても短い。
『ピムス』は当時のロンドン紳士たちの間で人気を集め、
英国の洗練された人たちの間でファッショナブルな
サマードリンクとして親しまれてきました。
ウィンブルドンやロイヤル・アスコット競馬、
ヘンリー・ロイヤル・レガッタなどのイギリスを
代表するイベント会場などで多く愛飲されています。
夏の野外で飲んだら何とも最高の気分でしょう。
クローンの彼等にもそんな体験をして欲しかった。
『ピムスNo.1』は映画では記憶にないのですが、
クリスティー作品など始め、多くの英国作品中に
登場しています。
『福寿』(日本酒)
作品中に全くお酒が登場しないという事で、
ここは原作者のカズオ・イシグロにちなんで一つ。
昨年、2017年にノーベル文学賞を受賞した際、
公式晩餐会で提供された日本酒『福寿』を紹介。
イシグロ氏もこの美酒を口にした事でしょう。
益川敏英氏らが受賞した2008年の晩餐会から、
日本人が受賞した際の定番となり、これまで7回、
晩餐会やアフターパーティーなどで世界中からの
ゲストに振る舞われています。
兵庫の灘を代表する、神戸酒心館が造る清酒『福寿』
宝暦元年(1751年)に灘・御影郷において清酒の醸造を
始めました。
兵庫県で育まれた最良の原料米と名水百選『宮水』を用い、
手造りによる丁寧な酒造りを行っています。
一時はそんな経緯もあって入手が困難だったようですが、
現在は普通に手に入りますし、値段はとてもリーズナブル。
世界の著名人やセレブが晩餐会で味わった『福寿』を
是非一度試してみてはいかが?
ノーベル賞受賞者は言うに及ばず、こういう大舞台で
我が国の日本酒が提供されている事は、とても誇りに
感じるところです。
<追記>
『英国的』
私のBARの常連の一人でリバプール出身の英国人、
少し年上のKさんとの会話から。
今回提供の『ピムスNo.1』の話。
私『Kさん、ピムスは当然知ってるよね?』
K『勿論、英国の有名なサマードリンクだよ』
私『夏のイベントとかで良く飲まれるんだよね』
K『その通り!』
私『Kさんは好きかい?』
K『いや、一度も飲んだ事が無い』
私『本当に?』
K『今まで一度たりとも』
私『何で?英国の夏の風物でしょう?』
K『店でも飲んだ事無いし、実家のホームパーティーで
も子供の頃から見かけた事が無いよ』
私『そうなんだ、何故だい?』
K『あれは(ファッキン)スノップだからさ』
私K『ハハハハハ!!!!』
その時何故か、モンティパイソンが頭の中を
グルグルと駆け巡りました。