映画とお酒

『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #14「ミッドナイト・イン・パリ」」

『シネマに酔狂』

バーテンダーが語る映画とお酒 #14「ミッドナイト・イン・パリ」」

〜映画を彩る名脇役たち〜

Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。

第14回作品『ミッドナイト・イン・パリ』2011年米国

日中は澄んだ青い空と整頓された白い建物が
目に眩しいくらいですが、夜は一転、何だか妖しい。。
街灯も少なく明暗も焦点も鈍い、裏通りは人もまばら…
かの偉人達が見たパリの夜もきっとこんな感じだろう、
と思ってしまうほど魅惑的なパリのミッドナイト。

エコールドパリからベルエポックへ、芸術家達が
愛した数々のお酒がこの作品に華を添えています。
そこで今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。

『モエ・エ・シャンドン・ブリュット・インペリアル』(シャンパン)

黄金時代の舞台に絶対に欠かせないシャンパン。

この作品では、現代そして1920年のパーティーで
いずれもモエ・エ・シャンドンが登場しています。
1920年のシーンではラベルが当時の古いデザインに
なっていてその辺りも酒通の心をくすぐるもの。
偉大な芸術家と飲み交わすシャンパンとなれば、
さぞ天にも昇るような気分と味わいだったでしょう。
この時代周辺の作品では、シャンパンは大概ボトルの
首根っこを掴まれて持ち歩かれる感じ、またそれがいい。
いつの時代にタイムスリップしたって、未来だって、
シャンパンはやはり『シャンパン』なのだろう。

世界で最も流通しているシャンパンのモエシャン、
飲んだことがある方も少なくないのでは?
この銘柄のプレステージはあのドン・ペリニョン。
フラッグシップとあって多くの映画に登場しています。
『タイタニック』『グレートギャツビー(新)』
『昼下がりの情事』『プラダを着た悪魔』
『セックス&ザ・シティー2』etc…
いずれもプロダクトプレイスメント(広告と資金提供)
の関係で、お酒の存在感を作品中で際立たせています

個人的には私が初めて口にしたシャンパンであり、
私が初めてモエ・エ・シャンドンの存在を知ったのは、
クイーン『キラークイーン』の歌詞から。

『ウィスキー・サワー』(カクテル)

作品はパリが舞台とあってワインを始め、様々な
お酒が登場していますがここはカクテルを一つ。

主人公が1920年のパリにタイムスリップするとそこには
憧れの芸術家や作家がジャンコクトーのパーティーに。
正真正銘のフィッツジェラルド夫妻に手を引かれ、
『ウィスキーサワーの美味い店があるから一緒に来ないか?』
と戸惑いながらも次の店へと誘われるシーン。

ウィスキー、レモン、シュガーシロップをシェイクした
最も古典的でシンプルなカクテル。
現在ほどお酒が流通せず冷蔵などの設備がない時代から、
また一級品ではない普通の酒材料で美味しい酒飲料へと
昇華させる、というカクテルの真髄を体現しています。
故に多くの老舗グラスメーカーには『サワーグラス』
という商品ラインがあり、このカクテルの歴史と意義を
物語っています。
ベースをブランデーに変えると『ブランデー・サワー』

日本で『サワー』というと柑橘系の炭酸割りですが
それは日本だけ、海外では炭酸の入らない上記の通り。

夏の乾燥した暑い午後、常温の琥珀の酒ではなく、
良く冷えて酸味の効いたウィスキーサワーなら、
なんて素晴らしいだろう。
『七年目の浮気』『ロンググッドバイ』など、
他のハードボイルド系にも登場しています。

<追記>

『LVMH』

現在モエ・シャンドン社はMHDディアジオモエヘネシーの傘下
であり、MHDは更にLVMHモエヘネシールイヴィトンと呼ばれる
とてつもなく巨大な国際複合企業の傘下となっています。

服飾、化粧品、装飾品、宝飾、時計、酒造、ワイン、免税店DFSグループ、
デビアスなど多種競合ブランドまで含めて数十の企業にまで及びます。

ルイヴィトンもディオールもジバンシーもフェンディーも、
モエもヴーヴもクリュッグも、ショーメもゼニスもブルガリも、
ギネスもジョニーウォーカーもヘネシーも….

さて、この作品に登場した芸術家や偉人達も
こよなく愛しただろう世界に誇る一級品の衣装や装飾品やお酒の数々。

其々のブランドが持つオリジナルな個性、伝統、格式、精神性など、
それが今や巨大な国際グループ企業化をされているのを目の当たりにして、、

果たしてこの作品に登場する『ロストジェネレーション』の人々は
一体どんな風に思うのだろうか。。

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