『シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #58「ナイト・オン・ザ・プラネット」
『シネマに酔狂』
バーテンダーが語る映画とお酒 #58『ナイト・オン・ザ・プラネット』
〜映画を彩る名脇役たち〜
Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。
第58回作品『ナイト・オン・ザ・プラネット』1992年米英仏独日
ジム・ジャームッシュ監督作品。
地球という同じ星の、同じ夜空の下で繰り広げられる、
それぞれ異なるストーリーをオムニバス形式で描く。
大物エージェントを乗せる若い運転手、英語の通じない運転手、
盲目の女性客と口論する運転手、神父相手に話し出したら
止まらない運転手、酔っ払い客に翻弄される運転手……
ジャームッシュ作品にシガレットは欠かせない、加えて、
作品により酒も間々登場するが、本作は深夜のタクシーが舞台、
よって序盤の駄目ロックバンドの缶ビールくらいと…
そこで、今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。
『ブルックリン・ラガー』(ビール)
こちらはニューヨークを舞台にした幕より。
寒い街角、黒人の男ヨーヨーはブルックリンへ帰る為にタクシーを
拾おうとするが、これがなかなか捕まらない。
やっとの事で捕まえたタクシーを運転していたのは、東ドイツから
やって来たばかりのヘルムート。しかし彼は英語がうまく話せず、
その上、オートマ車の運転もろくに出来ない。
ヨーヨーが運転手のヘルムートに「ブルックリン」と行き先を
告げるも、ヘルムートはその場所や行き方を全く知らぬ様子で、
「ブルックランド…」と何度も呟くばかり。。
果たして無事に辿りつけるのか、今回はその名を冠した、
『ブルックリン・ラガー』をご紹介。
さて、降りたくも降りられないヨーヨーは自らタクシーを運転。
道中、お互い上手くコミニュケーションが出来ないのだが、
人並み以上の努力と理解を高めざるを得ない化学反応によってか、
言葉遊びやユーモアも交えて徐々に二人は打ち解けあって行く。
車内でのやり取りやお互いの背景に至る話など味わいが深い。。
ブルックリン・ブルワリーを代表する『ブルックリン・ラガー』
19世紀のブルックリンには個性的なブルワリーが多数存在し、
当時のブルックリンで⼈気があったウィーンスタイルラガーを
再現、日本でもヒットしたクラフトビールの一つです。
話は変わって、私がニューヨークを訪れたのは1990年の頃。
今に比べると格段に治安が悪い時代で、特にブルックリンは、
観光案内所で旅行者は近寄らない様にと注意された程。
本作でも深夜のストリートの危ない風景が映し出されてます。
しかし現在、ブルックリンは観光に限らず、アート、音楽など、
新たなカルチャーの発信地として注目され、活性化しています。
『ブルックリン・ラガー』ブランドもその一つの象徴でしょう。
さて、無事にヨーヨーはブルックリンに帰る事が叶います。
ヘルムートにマンハッタンへの帰り道を親切に説明するも、
やはり右も左も分からずタクシーは道を彷徨うばかりで…
『フィンランディア』(ウォッカ)
こちらはヘルシンキを舞台にした幕より。
凍りついた街で無線連絡を受けたタクシー運転手ミカ。
待っていたのは酔っ払って動かない三人の労働者風の男。
その中の一人アキは酔い潰れていて車に乗ってからも眠っているが、
残る二人はミカに、今日がアキにとってどれほど不幸な一日かを
高らかに語り始める。しかし、ミカは今、
アキとは比べ物にならないほどに不幸であるがために、
彼らの話に動じることはなかった。。
客の三人の男は登場シーンからかなりの泥酔状態。
その中の一人、アキに起こった人生最悪の日の内容とは、
どうやら仕事をクビになり、買ったばかりの新車を壊され、
それにより刃物を振りかざす妻に家を追い出されたという不幸。
友人同士で一晩語り、互いに慰めあったのだろう。。
フィンランドは国産ビールも豊富ですが、こんな夜は、
ウォッカでも飲まなければやってられないだろう。。
そこでフィンランド産の『フィンランディア』をご紹介。
『フィンランディア』は高純度の天然氷河水と白夜の国、
コスケンコルバという小さな村に蒸溜所は存在し、豊かな自然、
フィンランドの穏やかな日光を浴びた最上級の六条麦で製造され、
世界市場に展開するプレミアムウォッカです。
フィンランド人はウォッカは基本的にストレートで飲みます。
50度を超えるウォッカは熱冷ましになるとも言われ、
大人が風邪を引いたらショットグラスで軽く喉に通す習慣も。
また、フィンランド人は日本人同様、あるいはそれ以上に
自分たちをシャイで口下手な民族だと認識している人が多く、
「酒なしには語れない」とばかりにお酒の力を必要とします。
一方で、アルコール中毒者や未成年の飲酒が社会問題でもあり、
夜の繁華街では街をふらつく酔っ払いも多いとか。
本作中の三人の男達も正にその様な風情といったところ。。
話の後半、タクシー運転手ミカの比べ物にならない不幸とは、
それは本編を鑑賞して是非確かめてみて下さい。。