映画とお酒

シネマに酔狂』バーテンダーが語る映画とお酒 #30「椿三十郎」

『シネマに酔狂』

バーテンダーが語る映画とお酒 #30「椿三十郎」

〜映画を彩る名脇役たち〜

Bambooキネマ倶楽部の作品に合わせてご紹介した、
映画とお酒にまつわるコラムです。

第30回作品『椿三十郎』1962年日本

薄暗い社殿で密議をこらしていた9人の若侍。
上役を告発するも逆に窮地に陥っていた。
それを図らずも聞いていた浪人は、
権謀に疎い彼らに同情し一肌脱ぐことに……。

お酒のシーンもありますが大凡時代物の場合、
銘柄云々という訳にも行かず、、
そこで今回も私の独断と偏見でお酒を紹介します。

『赤椿』(芋焼酎)

作品タイトルの通り、三船演じる素浪人は名を問われ
庭先の椿の花をじっと見て椿三十郎と名乗る。
また仇敵の本丸は椿御殿呼ばれ、突入決行の合図が
庭園をまたいで流れる小川に椿の花を浮かべる事。
囚われた三十郎が白椿と赤椿の色の違いを利用し、
知略を以って窮地から抜け出す場面など。。
椿三十郎の名だけに及ばす、多くの場面で椿の花が
効果的に使われています。
そこで、その椿の名を冠したお酒をご紹介。

祁答院蒸溜所の限定銘柄『赤椿』
少量栽培される頴娃紫(えいむらさき)を使用、
かめ壷による丁寧な仕込み、果実のような上品な香り
がありまろやかな甘さが特徴のお酒。
同じく限定銘柄で『白椿』『黒椿』があります。

流れ着く椿の花を見て「まぁ綺麗」と殺伐とした
状況にあって花を撫でる奥方と娘のシーンや、
(その女性の感性により大事な血判状の発見に至る)
戦々恐々と足軽を増強する敵の屋敷内に見事な椿の花が
絢爛に咲き誇っているというコントラストなど。
また、沢山の椿の花が流れる=沢山の首を取られる、
という事が暗示されているようで、もうすぐ四十郎だと
おどけた際の椿からは一転して、椿が死をイメージさせる
小道具として使われ、作品に緊張感をもたらせています。
そういう意味でも椿の花が深く印象に残ります。

赤い色の椿は当時の白黒の画面では色味が映えず、
実際は黒く塗られており、椿の枝葉も萎れやすく
見栄えが悪かった為、違う種類の植物を使ったのだとか。
黒沢作品はそういった拘りのエピソードに止まない。

椿だけを赤くパートカラーにいう案もあったようで、
これも当時の技術的な事情で実現できませんでした。
もしも椿の花だけが白黒画面に赤く染まっていたら、、、
更なるインパクトが、それを観て見たかった。。

パートカラーは翌年の「天国と地獄」で実現そちらも是非。

『ホワイト・ホース・ファインオールド』(ウィスキー)

お酒と作品との絡みは馬が登場しているくらいですが、
(黒沢作品にとって馬はとても大切なエレメントであり…)
今回は無類の酒豪であった黒沢明監督の御愛飲の一つ、
ブレンデッドスコッチのホワイトホースをご紹介。

酒豪で有名な黒沢監督、三船と二人で一晩にウィスキー3本、
撮影後に三船や撮影監督らが酒の誘いからよく逃げていた、
などお酒にまつわる逸話も多い。
娘の和子著「ウィスキー命・黒沢明の食卓」によると、
昔からホワイトホース一筋、近くの酒屋にダース単位で注文。
(その頃はまだ洋酒が大変高価な時代でした)
80代になってもウィスキー1本の八分目ほど嗜んでおり、
死の前日に至っても水割りを三杯程飲んでいたとか。
ジョニーウォーカーやロイヤルサルートなどもお好きと。

「花様年華」の回で12年物(日本市場限定)を紹介しまして、
今回はスタンダード品のファインオールド。
エディンバラ城にほど近いスコットランド軍の酒場兼定宿で
あった「白馬亭(ホワイトホースセラー)」に由来する。
発売当初のブランド名は「White Horse Cellar」
1908年に英国王室御用達、スクリューキャップをウイスキー
ボトルに初めて導入して売り上げを伸ばした、
キーモルトはラガヴーリン、グレンエルギンなど。
近年ファインオールドはハイボールブームで需要大、
黒沢の時代同様、更に親しみやすい銘柄となっています。

ウィスキー好きとあって当時のサントリーリザーブCM
に出演しています、コッポラとの共演のバージョンも。
そこには黒沢監督らしい言葉と世界観が漂っています。

今回、黒沢作品「椿三十郎」の回とあって、
映画「乱」に於いての黒沢直筆の絵コンテ版画集を
ご参加の方々と観賞する機会となりました。
乱のエポックなシーンの瞬間的な殺気や美、表情、色彩、
画家としても一流の監督、その類い希なイマジネーションを
映画作品というものへ見事に具現化していったのでしょう。

夜な夜なホワイトホースのグラスを傾けながら唯一人、
書斎のテーブルランプのみに映しだされた大画用紙に、
ペンや筆を走らせている揚々な姿を想像する。
まだ見ぬ黒沢作品の夜明け前の光景だろう。

その時、ホワイトホースはどんな味だったのだろうか。。

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